20260105第19回 Oral Science Cafe 第18回オーラルサイエンスcafeからのフォーラム開催報告と顎顔面骨延長について
全体要約(喋ラボ様のご協力により自動で生成しております)
日時:2026/01/05 19:00~
全体要約
本年最初のオーラルサイエンスカフェでは、前回フォーラムで生まれた2つの大きな流れが具体化した。1つは、整形外科医・見目氏による嚥下・咀嚼リハビリ用デバイス「ミラッジオ」の紹介と、口腔ケア・「食止めをなくす」運動との接続可能性の議論。もう1つは、谷口氏による電子線を用いた小型BNCT加速器構想と、その医療・産業波及および南アジアの口腔がん制圧への応用の可能性である。あわせて、総合東京病院における顎顔面骨延長(骨延長術)の現状報告があり、骨延長の位置づけや適応について整形外科側も交えて議論した。今後は東京でのAI×医療安全フォーラム、BNCT開発連携、骨延長や嚥下リハのフォーラム化などを進めつつ、サイエンスカフェのアーカイブ配信と参加者拡大を図ることを確認した。
前回フォーラムの振り返りと本会の位置づけ
南東北病院でのフォーラムの成果: 口腔ケア+摂食嚥下リハビリテーションに関する多職種・産業界との議論が学会以上に活発で、新たな発想や共同の種が多数生まれた。
新規参加者の紹介: 菊地製作所・一柳副社長(工学博士)、谷口氏ら産業側の参加により、医療機器開発(特にBNCT関連)の議論が加速している。
サイエンスカフェの性格: 学会発表とは異なり、専門・立場を超えた自由な意見交換から思わぬ方向へ発展する「本当のフォーラム」として位置づける。
今後の方針: テーマごとにフォーラムを随時立ち上げ(嚥下リハ、AIと医療安全、BNCT、骨延長など)、サイエンスカフェをそのハブとする。
トピック1: 嚥下・咀嚼リハビリシミュレーション「ミラッジオ」の紹介と意義
開発背景: 見目氏(整形外科医・リハ科課長)が、誤嚥性肺炎の多さと嚥下リハ専門職(ST)の不足、咀嚼訓練の指導が「各自努力」に任されている現状を課題として認識。
ミラッジオのコンセプト: ASMR食動画の「咀嚼音」をマウスピース内の振動子に変換し、フレーバー付き綿棒による味覚刺激、映像による視覚刺激と組み合わせて、実際には飲み込まずに五感を用いて「食事体験」をシミュレーションする装置。
安全性と効果: マウスピース装着で嚥下をさせず、唾液は後で排出する仕組みとし、高リスクの嚥下訓練を回避。筋活動と唾液分泌はガムと同程度の誘発が確認され、高齢者や義歯装着者にも適用可能なトレーニングツールになり得る。
臨床応用の萌芽: 咀嚼困難で食事に2時間以上要する小児症例で体験させたところ、当初は異物感で拒否も、映像と連動した刺激で行動が変化し、リハビリツールとしての可能性が示唆された。
今後の課題・議論軸: 「なんとか食べさせる/食止めをなくす」という現行の口腔ケアの方向性と、「安全に食事体験を提供する」ミラッジオをどう噛み合わせるか、患者QOL・リスクと両立させる設計が今後の共同検討テーマとなった。
トピック2: AIと医療事故・ヒヤリハット分析および東京フォーラム構想(坂東氏)
坂東氏のバックグラウンド: 26歳で眼摘術を受け瀬戸氏のエピテーゼ治療を受けた経験を持つ。NECでコンピュータハード設計に従事し、定年後に電気通信大学博士課程で「コンピュータ事故のメカニズム」を研究、医療事故応用へ展開中。
現在の活動: 相模原の総合相模更生病院薬剤部と協働し、約180件のインシデントレポート分析を基に、医療安全に資する仕組みづくりを進めており、その途中成果を韓国ソウルの学会で発表。
AI活用の位置づけ(瀬戸氏の整理): AIは膨大な過去データを人間以上に処理し「今こうなっている」を示すが、「ではどうするか」のアイデアは人間側の仕事であるという前提で、歯科・医科領域の診療・安全管理にどう組み込むかがテーマ。
東京フォーラム案: 前回の南東北フォーラムと同様に、今回は総合東京病院を舞台に「AI×医療安全/歯科医療」をテーマとしたフォーラムを企画。多職種連携会を主導する草川氏も会場・運営面で協力の意向を表明。
今後の進め方: 具体的なプログラム構成はサイエンスカフェ内で継続検討とし、医療事故データベース、歯科のヒヤリハット、AIによるリスク予測・教育活用などを候補トピックとして挙げた。
トピック3: 電子線加速器を用いた次世代BNCT装置開発構想(谷口氏)
BNCTの特徴整理: 中性子とホウ素(ボロン)の核反応で短飛程のα線を発生させ、ボロンを集積したがん細胞のみを破壊する治療。通常放射線や粒子線に比べ、照射回数が1~2回で済み、周囲正常組織へのダメージが少ない「夢の次世代がん治療」とされる。
現行BNCTの問題点: 南東北病院や大阪医科薬科大の装置は約70億円と高額で、BNCT専用であるため汎用加速器のようなコスト分散もできない。これでは広く普及せず、アジア医療貢献にもつながりにくい。
電子線方式の基本アイデア: 陽子線の代わりに電子線を用い、重金属ターゲットで制動放射ガンマ線を発生させ、それを光核反応で中性子に変換する2段階方式を採用。東北大・北大の理論計算では、従来陽子ターゲット方式より約50倍の中性子強度が期待される。
マイクロトロン利用による小型化: 立命館大・山田氏のマイクロトロン(直径約1.3mで20MeV電子加速可能)を用いることで、装置全体を約10m×3~4m・天井高3m程度に収め、病院内の通常フロアに設置可能なレイアウトを想定。
遮蔽設計と患者負担: 約1m厚の水主体遮蔽で済ませ、従来の厚いコンクリート・鉛を不要化。患者は大型遮蔽室に閉じ込められず、開放的空間でビームを回転させて照射する方式とし、精神的負担軽減を図る。
線量モニタリング: 照射中の速発ガンマ線を2~3方向のガンマカメラで測定し、ボロンの集積状況・がん破壊の進行をIn-situに可視化するシステムを組み込む計画。京都大学原子炉での実績技術をベースにする。
波及効果と国際展開: 医療費・社会コストの抑制、小さいが高付加価値な医療機器産業クラスター形成、国の重点施策との整合性、特に高齢化とがん増加が顕著なアジア諸国への技術輸出・協力のポテンシャルを重視。
トピック4: BNCTの安全性・歯科金属との関係に関する質疑
一般的な有害事象の想定: 体を透過する中性子自体の生体影響は小さいが、反応生成物としての即発ガンマ線が重要臓器に影響を与える可能性があり、この点は現時点で未知であり今後の検討課題とされた。
既存小型加速器との違い: 福島SICのDT反応などを用いる方式は一基あたりの中性子量が小さく多門化が必要で、かつ金属構造体の放射化・周辺被曝が問題で実用化困難との評価。今回の電子線方式とは原理的に異なる。
歯科金属・インプラントへの影響(阿部氏の質問): 中性子は金属を容易に放射化するため、BNCT適用時には金属補綴・インプラントがある部位への照射は基本的に不適。照射停止後も放射化金属から放射線が出続けるため、安全が保障できない。
対応方針案: 事前に金属の有無を検査し、可能なものは除去してから治療する。術前検査で見逃された微小金属は、照射中の即発ガンマ線イメージングで発見し、治療とQOLのバランスを踏まえ、必要なら治療後に除去する。
口腔がん治療との接点(瀬戸氏コメント):南アジアでは口腔がんががん全体の約20%を占め、生活習慣病として蔓延している。従来推進してきたフリーフラップ再建は必ずしも真の機能再建ではないとの反省があり、「切らずに治す」BNCTや光免疫療法を、機能温存を重視した新たな標準候補として位置づけたい意向が示された。
トピック5: 総合東京病院における顎顔面骨延長(骨延長術)の実践報告(代田氏)
着任と診療方針: 代田氏は2025年3月に昭和大学を定年退職後、総合東京病院顎口腔外科部長として着任。高齢患者が多い一方で、大学病院時代には見なかった重度の口腔衛生不良例や希少疾患症例が多数おり、症例整理・研究対象としての意義を認識。
顎口腔外科の「3本柱」: ①周術期口腔機能管理の徹底、②全身疾患患者への口腔ケア(重度歯石・ストレッチャー患者等も含む)、③インプラント治療の立ち上げ、に加え、④変形症治療としての骨延長術の充実を掲げている。
骨延長(Distraction Osteogenesis)の概要: 骨を一旦切断し、潜伏期の後に1日約1mmずつ延長することで、骨とともに血管・筋肉・皮膚・脂肪など周囲軟部組織も再生・伸長させる方法。元々はソ連のイリザロフが下肢骨折・変形に応用し、その後イタリア経由で顎顔面領域に導入された。
現在の適応症例: ヘミフェイシャルマイクロソミア(片側顎の成長不全)、重度の口蓋裂関連顎変形症など、一回の骨切り・移動では対応困難な高度変形例に限定して適用。2025年に2例実施済み、2026年2月にも追加症例予定。
今後の発表予定: 南東北グループ勉強会で骨延長治療の詳細(計画・手技・結果)を発表予定であり、将来的には顎口腔外科領域の骨延長をテーマにしたフォーラム開催も視野に入れている。
トピック6: 骨延長術の適応と今後の展望(整形外科との比較・インプラント応用など)
日本での歴史と現状(代田氏・瀬戸氏):1990年代に東大・高戸氏らが顎変形症に応用し、日本でも一時ブームとなったが、現在は適応が厳選されている。下肢外傷後の機能温存目的で南東北の外傷センターなど整形外科領域では今も盛んに用いられている。
顎顔面骨の特殊性: 手足の長管骨と異なり、上・下顎は曲線的かつ三次元的な変形が多く、「一方向延長」だけでは対応しにくい。口蓋裂症例では前後劣成長に加え左右差や傾きが伴うため、コンピュータシミュレーションとCAD/CAMサージカルガイドで骨片の初期位置・傾きを調整し、単方向延長装置でも目的位置に誘導する工夫が用いられている。
装置選択と患者負担: レッドシステムのような外固定装置は三次元制御に優れる一方、頭部に外フレームを装着する負担が大きく、小児では精神的ストレスも問題。代田氏は可能な限り口腔内固定型(送内型)装置を採用しているが、一方向延長しかできないことが制約となる。
整形外科からの知見(見目氏): 小児整形や変形治癒骨折ではイリザロフ法が一般的で、骨膜を活かしたマレスカ法により骨形成を強化するなど、骨膜の役割が重視されている。顎顔面領域への応用可能性が示唆された。
インプラント領域での位置づけ(高橋氏): 10mmを超える大規模骨欠損では、人工骨・自家骨のみでは軟組織量が不足し限界があり、「骨+軟組織を一体で増やす」骨延長術は依然として代替困難な手段。症例数は少ないが、重度外傷後の歯槽骨欠損などで年間数例の適応が存在し、捨てるべきではない技術と位置づけられた。
障害要因と課題: 口腔粘膜・付着歯肉の伸展がボトルネックになりやすく、長期安定性をどう確保するかが課題。適応症例の整理と長期成績の共有、整形外科側の骨膜進展技術との連携が今後の方向性として示された。
トピック7: 今後のサイエンスカフェ運営・フォーラム計画・アーカイブ化
BNCT開発連携の具体化: 12月フォーラムを契機に、谷口氏と京都・北海道大学のBNCTチームが連携することになり、2026年1月9日に北海道大学で電子線BNCTに関する詳細打合せを実施予定。結果を踏まえ装置設計・シミュレーションを進める。
南アジア口腔がん対策のビジョン: 瀬戸氏は、インドをはじめとする南アジアで口腔がんが多発している現状を踏まえ、台湾・韓国など東アジア諸国と連携し、BNCT等を含む先端治療・予防で南アジアを支援する構想を再確認した。
サイエンスカフェのアーカイブ化(和泉氏): 本会を含むセッションをビデオ録画し、約100名のメールリスト参加者へ共有する方針を説明。谷口氏・見目氏・坂東氏ら主要発表者から公開許可を取得。
参加者拡大の呼びかけ: 大学教授に限らず、産業界・臨床現場・一般の有識者など「面白い視点を持つ人」であれば誰でも歓迎とし、各参加者からの紹介を依頼。家族(配偶者等)の参加も妨げないオープンな場とする。
次回開催
2026年2月2日(月)19:00~ 開催予定
今後のテーマ候補: 嚥下リハ(ミラッジオ)と「食止めをなくす」運動の接点、AIと医療・歯科医療安全、電子線BNCTの進捗、顎顔面骨延長フォーラム、南アジアの口腔がん対策、光免疫療法との比較検討など

